自分はまったく多読ではないのですが、それでも20代後半から最低でも年10冊以上は読んできました。多く読む年もあったので、200冊程度は読んでこれたと思います。本を読まない人と比べて明確に違いがあるとは思わないのですが、それでも個人的にはいろいろな助けになってくれたと感じています。
社会人になっていろいろな悩みが出てきたり、知識の領域を増やしたり、年々「本読まなきゃなぁ」と思うことが多くなってきた人もいるかと思います。
そんな読書慣れしていない方にも読みやすくて、読書を再開するきっかけになりそうな本をピックアップしてみました。
宇宙に命はあるのか/小野雅裕 著
1冊目は宇宙に思いを馳せる新書です。宇宙の話ですが、ライトな文体と詩を引用したりロマンチックな視点があったりと、どんどん読み進めていくことができます。また宇宙の本がよいのは、いまの現実の通勤電車や会社のしがらみや隣人の噂話などがとんでもなく些細に思えることです。最初の一冊としてすすめるのはこれも理由で、読書で非現実の世界に一足飛びにいけることを体感してもらいためでもあります。
著者の小野さんはNASA(アメリカ航空宇宙局)のジェット推進研究所(略称:JPL)でプログラムを書かれている方とのことで、技術バリバリのところにいながら海外へ挑戦するエネルギッシュな部分もあり、勝手に親近感が湧いてきてしまいます。
宇宙を目指した先人の歴史が、努力やさまざまな工夫の積み重ねの上にできていることを技術的な知識を背景に詳細に描かれています。さらにそのときどきのセリフも書かれており、当時の感動が鮮明に甦ってくるリアルさがあります。
久々に読書に触れる方にも読みやすいと思いますし、読んだ後には宇宙関連のニュースが「おっ」と気になってくるのではないでしょうか。
名称未設定ファイル/品田遊 著
書籍名にぐっときて買った本でした。
情報科学をふんだんに盛り込んだ短編集です。もともとダ・ヴィンチ・恐山としてwebで書いていた方なので、短い文章でもどんどん引き込まれていくような流れはすごいなあと感じます。会話調の文体のものが多くサクサクと読めるので、これまで読書をしてこなかった方にまさにぴったりな本ではないかと思います。
素材・題材はこれまでの自分たちの目の前にあったものなのに、切り口によってこんな風に捉えられるのかという部分もこの本の醍醐味のひとつ。デジタルネイティブではなく、PHS・ケータイ・インターネット黎明期・スマホと年齢とともにさまざまにコミュニケーション手段が変化していったいまの40代にまさにぴったりの一冊です。
また価格もリーズナブルで短編集なので、「とりあえず買ってみてパラパラめくってみるか」をしてもらえると思います。
高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学/菅原晃 著
次は経済の本はどうでしょうか。といっても経済学のごくごく一部なので、そこまでボリュームはありません。世界の経済に関連したマクロ経済学といわれる分野の一部です。
タイトルに書かれているとおり高校生でもわかりやすく、丁寧に実例を挙げて解説がされています。また足し算や割り算などのめちゃくちゃ簡単な計算式も使われていて理解を助けてくれます。
この本の中で自分が特に面白かったのが第4章の「リカードの『比較優位論』」でした。
自分の理解で簡潔に説明すると、「比較優位なものでそれぞれが貿易(交換)するとそれぞれが利益を得られる」や「比較優位なものをそれぞれが行うことで、一人ですべてやるよりも全体の生産量が増加する」というものです。この本、というかこの章を読むまで自分は、「他の人より得意な絶対優位な分野で競争や貿易をした方がよい」と思っていました。
ここで比較優位と絶対優位を簡単に説明すると、「比較優位=自分の中で得意なこと」で「絶対優位=他の人よりも得意なこと」となります。
本書の中の説明でもあるのですが、アイロン掛けも洗濯物たたみも得意なお母さんと、その9歳の息子を考えます。息子はアイロン掛けも洗濯物たたみもお母さんより遅いです。息子はそれぞれの業務で絶対劣位で、逆にお母さんはそれぞれの業務で絶対優位です。息子の中だけで見ると実はアイロン掛けのほうがちょっと得意で、息子にとってアイロン掛けは比較優位な業務となります。この場合、息子が比較優位のアイロン掛けを担当して、お母さんが洗濯物たたみをするほうが全体の仕事が早く終わります。これを「比較優位論」といいます。
この説明が非常に分かりやすい表現で書かれています。
40代になったけど、「そろそろまじめに会社の数字のことも知らなきゃな」という人の入口としてぜひ手にとってもらいたいです。
すべてがFになる/森博嗣 著
人が死ぬ推理ミステリーです。
この本が圧倒的によいのが、女子大学生と准教授?助教授?の軽快なトークによってどんどん進んでいくストーリーです。会話によって見える世界が広がっていくので、ぐいぐいとこの世界観に引き込まれると思います。
個人的には大学院時代の研究室の空気を感じさせてくれるので、セリフのリアリティがハンパないなと思っています。著者の森博嗣(もり ひろし)さんは名古屋大学大学院の修士を出ている方とのことで、論博を経て教授となっておりしっかりとしたサイエンスがベースとなった内容なのも楽しいです。
またメフィスト賞を獲得した作品でもあるので、読者の期待をまったく裏切らずにしっかりと裏切ってくれます。文字を追っていく読書という行為で「うぉーっ!」という声が出る本でした。
「大人だったら読んどけ」とか「40代にためになる」などの本は選んでいません。本を読んでいなかった人が読書の楽しみを感じてもらえる、そしてもうちょっと次も読んでみようかなというものを選んでみました。
読書にどっぷりと浸からなくても、「年に数冊は読んでみようかな」という感覚になってもらえたら嬉しいです。
いまの時代の読書の効果
「読書は愉しむもの」としてよいと思いますが、メリットについて考えると本を読み始めたり、読書を継続したりするモチベーションになるかもしれません。
1冊読むだけで、本を読む4割側のひとに
下記のサイトには文化庁の読書に関する世論調査が載っていました。
この調査によると
電子書籍を含む本を1カ月で何冊読むか尋ねたところ、「読まない」が最も多く、62.6%。
とのことです。回答者が3,559人なのである程度データの信憑性は高そうです。捉え方を変えると、月に1冊でも読むことができれば読む側の37.4%に入っているとも言えます。毎月1冊が難しくても、0冊でなければいいわけですから、半年で1冊でもよいわけです。これなら週末に30分くらいの時間をさけば達成できそうですよね。
集中した自分だけの時間がとれる
読書で「知識やスキルを得たい」という気持ちもあると思いますが、まずは本を読んでいる時間を楽しんではどうでしょうか?仕事や家庭で時間・場所が取りづらいかもしれませんが、例えば「帰宅時の最寄り駅のホームのベンチで5分だけ」なら時間・場所が取れるかもしれません。
本を読んでいるあいだは、その本の世界の中に入ることができます。仕事のメールを見るのと違って、まずは一文字ずつ一行ずつゆっくりと読み進めてみてください。そうするとだんだんと本の内容に集中していくと思います。
一つのことに集中している状態は、近年注目されている「瞑想」や「マインドフルネス」と近い状態を再現できるのではないかと私は考えています。
もちろんリラックスや気分転換のためでも、有意義な時間になると思います。
読解やライティングのスキルがあがる
ブログ記事などと違い書籍は、文章作成スキルのある人が作成し、編集者や校閲のチェックや修正を受けてできあがっています。そのため文章の品質が高いことはある程度保証されています。そんな文章に多く触れることで、自然とよい表現や文章構成がインストールされてくると思います。
また分からない漢字や表現に出会うこともあると思いますが、文中で使われているので最初から使い方が自然と理解できるようになります。追加で調べるという行為が必要ですが、気になった単語を調べることでより自分のなかに定着していくのではないでしょうか。
このように文章構造や表現、単語など読解に必要な知識が自然と蓄積され、アウトプットするときにも活用できるようになってくるかと思います。
新たな考えや概念を獲得できる
ある分野の研究者だったり、技術を身につけたスペシャリストだったり、特定の思考を深く追求した人だったりが、獲得したものを一冊に凝縮したのが書籍といえると思いますが、そういったものが高くても2,000円くらいで買えるというのはけっこうお得ではないでしょうか。
書籍を読むことによって、それらの考えや知識を数時間から数日で簡単に手に入れることができます。もちろんそれらを自分のものにするにはさらに時間が必要でしょうが、それでも少なくとも読書はきっかけになるはずです。
新たな概念を獲得するときに、ひとつポイントがあります。人間は、すでに獲得した既存の概念でしか新しい概念を理解できないという考え方があります。そのためはじめに難しい本を読もうとしても理解できず、読書に挫折してしまうことがあります。
その点、40代は仕事や家庭はもちろん人生のあらゆるところでさまざまな経験の蓄積があります。過去に本を読んでいなくとも多くの経験が、新しい概念の理解の助けになってくれます。ただ場合によっては(人によっては)、経験に固執することで新しい考えを拒絶してしまうこともあるのでご注意を。